私たちは日々、「相続」というテーマに向き合っています。
相続とは、財産や文化や想いを次世代へ引き継ぐこと。しかしその中には、時として“負の財産”も含まれます。
では、日本という国全体で見たとき、将来世代に引き継ぐものの中に、「極めて大きな負の相続財産」があるとしたらどうでしょうか。
それは、原子力発電(原発)ではないでしょうか。
原発は、高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の処分場がない、放射性廃棄物が半減期を迎えるまで約10万年かかると言われていること、廃炉や補償まで含めたコストは決して安くない、など色々な問題が有ります。
しかし今回は特に、「地震」と「原発の本質的な危険性」という観点から考えてみたいと思います。
東日本大震災が突きつけた現実
2011年の東日本大震災は、巨大地震と大津波によって甚大な被害をもたらしました。
そして同時に、原発事故という深刻で過酷な事態が発生しました。
あの事故が示した本質は何か。
それは、
原発は「止めれば安全」な施設ではない、
という事実です。
通常の発電所であれば、運転を止めればリスクは大きく低下します。
しかし、原発は違います。
運転を停止した後も、原子炉内では崩壊熱が発生し続けます。
そのため、電気と水を使って冷やし続けなければなりません。
つまり、
止めた後も、人の管理とエネルギー供給が不可欠な“止まらない装置”です。
止めても安全ではないという構造的リスク

原発の最も大きな特徴は「止めても終わらない」という点にあります。
地震が発生した際、原発は自動的に停止します。
しかし、それで安全が確保されるわけではありません。
問題はその後です。
もし地震によって停電が起き、さらに断水も重なり、
人が十分に管理できない状態になったらどうなるか。
冷却機能が失われれば、原子炉は暴走し、メルトダウンに至ります。
そして原発は制御不可能になります。
つまり、
地震という自然災害と、原発の構造的リスクは非常に相性が悪いのです。
これは単なる設備の問題ではなく、原発の仕組みそのものに内在するリスクと言えるでしょう。
ひとたび事故が起きれば「国を揺るがす被害」に
原発事故の恐ろしさは、その被害規模にあります。
一般的な災害は、時間とともに復旧へ向かいます。
しかし原発事故は違います。
大地震による災害であれば、他の地域から救助に向かえます。
しかし原発事故も同時に起きると、外部から救助にも入れず大地震で救助を待つ人を見殺しにすることになります。
広範囲にわたる避難、長期間の居住制限。
地域社会や産業の崩壊など、影響は長く続きます。
もしこれが、広域かつ複数個所で同時に起きたらどうなるか。
被害は一企業や一地域の問題ではなく、国家レベルの問題へと発展します。
言い換えれば、
原発は“自国に向けられた核兵器”のような側面を持つ存在
とも言えるのではないでしょうか。
日本は“巨大地震が前提の国”

日本列島は複数のプレートが重なり合う、世界有数の地震多発地帯です。
実際に2011年には東日本大震災が発生し、さらに今後30年以内に70~80%の確率で首都直下型地震や南海トラフ巨大地震が起きるとされています。
規模は最大マグニチュード9クラスと想定されています。
また、2024年1月の能登半島地震では、道路や港が寸断され、地域が孤立するという現実も起きました。
この地域には、かつて珠洲原発の建設計画がありました。
もし原発が存在していたら、原発の爆発や放射能の被爆がありながら避難もできず、対応はさらに深刻になっていた可能性があります。
考えただけでぞっとします。
また志賀原発についても、稼働中であれば重大事故につながっていた可能性を指摘する声もあります。
先月の7月28日には、熊本で震度7を観測する大地震が有りました。
これは、日奈久断層帯という活断層による地震と言われています。
日本には2,000を超える活断層が確認されています。これは地表に現れているものが中心であり、地下に隠れている未発見の活断層もあると考えられています。
その中で、国が地震発生確率を詳しく評価しているのは、特に重要な114の「主要活断層帯」です。
主要活断層帯のうち、Sランク(今後30年以内にその活断層で大地震が発生する確率が3%以上と評価された活断層帯)は31あります。
今回、熊本大地震を起こした日奈久断層帯の区間は、発生確率が最大で6%などと評価されていました。
これら活断層も、ひとたび発生すればマグネチュード7級の大地震となる可能性が高く、被害は甚大になります。
日本はプレート型地震だけでなく、主要活断層帯やそれ以外の活断層でも大地震が起きる可能性が有り、まさに地震大国です。
日本は全国どこでも大きな地震が起こり得るという前提で考えることが重要です。
原発の安全性は“耐震性”で決まる

こうした状況の中で、原発の安全性を左右する最大のポイントは何か?
それは「耐震性」です。
原発の耐震性能は、ガル(加速度)や地震波の特性などで評価されますが、一つの分かりやすい指標としてガル値があります。
ここで注目すべき点があります。
一般の住宅メーカーでも、高い耐震性能を売りにしている建物では、かなり大きなガル値に耐える設計がされています。
(住友林業は3406ガル、三井ホームは5115ガル)
一方で、原発の設計で想定されているガル値は、必ずしもそれらを大きく上回るものではありません。
2011年に発生した東日本大震災は2933ガル。それに対して過酷事故を起こした福島第一原発の設計基準地震動は約600ガルと言われています。
原発の耐震設計が、頻発する地震よりもかなり低いことが分かります。
現在、原発の耐震設計基準は見直されているようで、場所にもよりますが、それでも1200~1300ガル程度のようです。
また、もし原発の建物本体は大地震に耐えられたとしても、配管や配線の耐震性は建物より劣ることが多く、水や電気の供給が止まれば大惨事につながります。
つまり、単純比較はできないにしても、「原発は絶対的に圧倒的な耐震性能を持っている」とは言い切れない現実があります。
世界有数の地震大国である日本において、この点は極めて重い意味を持ちます。
今年7月、中部電力が浜岡原発で想定する最大地震の揺れ「基準地震動」のデータを不正に操作していたことが明らかになりました。
原子力規制委員会もこの不正を見抜けず、規制委員会への情報提供で発覚しました。
元々、我が国の原発の耐震性は低いにも関わらず、それを偽装してより低い設計で原発を建設しようとすることは、原発で最も重要な安全性よりもコストを優先し、自分達のことしか考えていないことを示しています。
これは、国民を裏切り、国を破綻させる行為としか思えません。
このような事業者は、即刻事業停止にし、原発事業から退場させるべきでしょう。
注)
・基準地震動とは:その場所に将来やってくると想定される最も強い最大級の地震の揺れのこと。
・ガルとは:地震の揺れの激しさ・加速度(速度の変化の速さ)を表す単位。
数値が大きいほど、瞬間的により強い力が加わる激しい揺れであることを示す。
建造物の耐震性能を表す単位としても使われている。
未来に何を残すのか
相続の現場では、「何を次の世代に引き継ぐのか」が問われます。
それは個人の財産だけでなく、社会全体にも当てはまります。
原発は便利さをもたらす一方で、ひとたび事故が起きれば、取り返しのつかない影響を長期間にわたって残します。
そしてその負担は、将来世代へと引き継がれていきます。
これはまさに、“負の相続財産”ではないでしょうか。
原発の稼働が、AI時代における大量電力の必要性や電力の安定供給、コストの低減につながるとする主張があります。
しかし、ひとたび過酷事故は起きれば、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利が脅かされます。
生存そのものに関わる権利と、電気代が高い安いの問題を並べて論じることはできません。
私たちはいま、目先の利便性だけでなく、長期的な安全性、未来への責任という視点で判断していく必要があると思います。
原発の問題は、エネルギー政策の話にとどまらず、「どんな社会を、どんな日本を、子や孫に残すのか。」
その問いに、正面から向き合う時期に来ているのだと思います。
そしてもう一つ大切なのは、
この問題を“誰かが決めること”にしてはいけないということです。
相続の現場では、家族が集まり、対話を重ね、合意をつくっていく「家族会議」がとても重要です。
実はこの原発の問題も、それと同じではないでしょうか。
立場や意見の違いを超えて、国民一人一人が関心を持ち、考え、対話し、方向性を見出していく。
いわば、「国民全体での家族会議=国民的合意形成」が求められているのだと思います。
“今だけ”、“ここだけ”、“自分だけ”良ければいいという話ではなく、
未来への責任を、私たち自身の問題として受け止めること。
それがこの問題の解決への道ではないでしょうか。
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