相続相談に来られる皆さんは、もちろん相続について心配で、相続対策をしたいという事でご相談に来られます。
相続対策には遺産分割対策、相続税納税対策、相続税節税対策、認知症対策などがあると言われています。
では、その相続対策の目的は何でしょうか?
何のために行うのでしょうか?
遺言書を作る目的は?
数ヶ月前の勉強会の参加者の方から、遺言書を作りたいというご相談が有りました。
お話しをお伺いしてみると、その方には子供さんが3人おり、今までずっと3人には平等に遺産を分けるというお話しをされてきたそうです。
しかし、その内の一人と同居するようになり、その子のために自宅と預貯金の多くをその子に相続させる遺言を書きたいとの事でした。
事情が変われば親の考えが変わることもあります。
同居する子供が自分の老後の面倒を見てくれることになったり、他の子供が親の元に寄り付きもしなかったり、その子供が他の兄弟に比べて生活力が無かったりで、親としてはその子供により多くの財産を渡したいと思うことも有ると思います。
しかし、子供達3人に今まで平等に財産を相続させるという話をしているのですから、遺言だけ書いて特定の子供に多くを相続させると、あとあと問題になってくることが考えられます。
それなので、その方には、遺言書を作成する前に、これこれの理由で特定の子供に多くを相続させるので平等に相続させることが出来なくなったが納得して欲しいということを、子供達に話をした方が良いとお話ししました。
しかしご相談者は、それについてはしたくないとの事で、私に遺言書作成のサポートを依頼されることはありませんでした。
私としては遺言書作成のサポートを依頼されなかったことは残念ですが、サポートする事により子供達が相続後に揉めたりトラブルになることは、私の望むところではありませんし、私の相続コンサルタントとしての立ち位置にも反する事なので、サポートを依頼されなくて良かったと思っています。
(負け惜しみではありません。)
相談者の方にとっても、事前に不平等な遺言を書くことを子供達に話すことは、家族間でギクシャクしたり揉めたりする可能性が有るため、ためらいが有ると思います。
でも親が生前にキチンと話をしておかないと、親が亡くなって遺言書を開封した後、遺言の内容を巡って子供達の間で揉めたり関係が悪くなったりで、今まで良かった兄弟仲も悪くなってしまうことが有ります。
それは親御さんも望むところでは無いでしょうし、子供達にとっても不幸なことです。
遺産の分割を不平等にした理由について、親が生前に誠意をもって話せば、子供達は納得してくれるはずです。
遺言書を作る目的は、被相続人(亡くなった方)の最終意志を尊重するという意味も有りますが、一番の目的は残された相続人や家族が幸せに仲良く暮らす事だと思います。
遺言書が有るために揉めたり不幸になるのでは、何のための相続対策か分からなくなります。
相続対策の目的は?
相続対策として行うことにはどんなことが有るでしょうか?
具体的な方法としては、生前贈与、遺言書の作成、家族信託、生命保険の活用、相続時精算課税贈与、不動産の活用・整理処分・資産の組み替え、養子縁組、金融・投資商品の購入、任意後見制度、財産管理委任契約、死後事務委任契約などが有ります。
でも相続対策は方法・手段であって目的ではありません。
目的が明確に有ってこそ、最善の手段を選択することができ、手段は有効に働きます。
しかし、ご相談来られる方の中には、まだ相続対策の目的が曖昧な状態で来られる方もいらっしゃいます。
私たちはご相談者のお話にゆっくりと耳を傾け、相続対策の手段についてだけお話しするのでは無く、家族に対する思いや感情をお聴きし、相続対策で到達したい目標や将来の希望までお聴きします。
そうすることで相続対策の目的や、その目的を叶えたり課題を解決するための手段が見えてきます。
では、お話しをお聴きする中で相続対策の目的はいろいろ出てきますが、一番の目的は何でしょうか?
それは、「遺された相続人や家族の幸せ」が目的だと言えるのではないでしょうか。
親の立場からすると、「自分が亡くなった後、子供達や家族が相続のことで揉めないで、仲良く幸せに暮らしていって欲しい。だから、今から準備しておきたい。」
子供の立場からすると、「親が亡くなった後、相続で自分達兄弟が揉めることなく、今までと同じく良好な関係を保って付き合いをしていきたい。
そのために、親の生前に家族で相続について話し合いをして家族間で合意しておいたり、分割協議で話し合うのは大変なので遺言書などで親の思いを残しておいてもらいたい。」
これが、相続対策の一番の目的ではないでしょうか。
相続対策の目的をしっかり考え、相続対策の手段によって却って目的に反することにならないように、よく考えて対策をしたいものです。